ある男女の恋愛事情





あの時の伊吹くんは

今と真逆の性格だった。



大人しくて

みんなより一回りも大人で

でも、優しかった。



何度か隣の席になったとき、教科書を忘れたら何も言わずに見せてくれた。


給食で苦手な牛乳をいつも
先生に隠れて飲んでくれた。


何より、時々見せる笑顔が
すごく柔和で大人っぽくて


でもどこかカッコよかった。




あたしは、重傷なほど

伊吹くんを好きになってて。


それはもう鈍感な友達ですら気づいてしまうくらいに。



『サナ、夏くんが好きなんでしょ~?』


ある日の中休みに、一番仲の良い愛ちゃんと穂奈美ちゃんに問いただされたことがあった。


「えっ…」


『隠したってバレバレだよ~!』


『わかりやすすぎだもん』


「…」


『誰にも言わないから、うちらにだけに本当のことを教えてよー』


「う…うん。好き…」


『やっぱり~!』


『そうなんだあ!』



今のあたしだったら

絶対の絶対に教えたりしない。


だって元を辿れば

ここから悲劇は始まったのだから。











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