SトロベリージャM
(準備も出来たし、そろそろ行くか)


毎日、帰ってくるはずの家なのに、どこか名残惜しく感じてしまう。


玄関からではなくて、店のドアから出ることにした。


何となく、甘いジャムが恋しくなった。


きっと、都会の苦味を死ぬほど食らわなくてはならないような気がしたからだろう。


(大地、都会で会えるかな?)


ストロベリージャムを見ていたら、奇跡が起こるような気がしてきた。


気がづくと、いつの間にか、ショーウィンドーの中に手を入れて、見つめていたジャムを掴んでいた。


そして、そっと鞄に忍ばせた。



ドアを開けると、ベルが優しい音色で鳴った。


太陽が差し込んできて、一瞬目を閉じた。


そっと、目を開くと・・


目の前には、近所の皆が集まっていた。


実野里は驚いて、長いまつげの付いた目をパシパシさせた。


「どうしたの!?みんな揃って!」


皆は、最高の笑顔を実野理に向けていた。


裏に潜んだ悲しみや不安を、救世主になろうとしている妖精には向けたくなかったのだろう。


「実野里ちゃん、ありがとうね。」


「何もしてあげれなくてごめんね。」


「何かあったら、すぐ相談してね。」


そして、その笑顔の中には尊敬の眼差しが含まれていた。


汚れのない透き通った滴を纏った樹が、太陽に照らされて輝きながら、真っすぐに伸びていくような実野里の勇気に対して。








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