SトロベリージャM
また、余計なことを考えていた実野里は、ずっと突っ立ったままだった。


「梶矢谷さん?大丈夫?こっちに座って。」


社長のダンディーな声が響いた。


身体がビクッとなり、我に返った。


「あっ、はい!すみませんっ!」


(わたしの悪い癖がこんなときにも出てくるなんて。)


呆れながら、慌てて席に座った。


最初、社長は少し微笑んでいたが、すぐに真剣な顔つきになった。


「単刀直入に聞くけど、きみは何か企んでいるね?きみの住所は、我々が潰そうとしている地域なんだから。」


実野里は焦った。


こんなちっぽけな小娘に何ができるんだと、心の中で嘲け笑い、簡単に流すと考えていたからだ。


実際、実野里も計画に移す前、こんな大企業相手に一人で何ができるか悩んでいた。


思いついた方法は、人を利用することだけだった。


そんな自分の足元にも及ばない存在が、何かを成し遂げ、自分に猛威を振るうのではないかと目の前の大物は怪しんでいるのだ。


(滑稽な話ね。でも、意外に繊細な人だ。)



「住む場所は、就職の面接には関係ないと思います。」


そう言うしかなかった。


社長は、無言で実野里の履歴書を見ていた。


そして、口を開こうとした瞬間、別の声が先に聞こえてきた。





「父さん、俺の専属秘書として、梶矢谷さんはもらうから。」



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