魔物は其処に
「あの辺、見ていい?」
彼が指差した方向は、図書館の奥。
確かそこは、彼が探すであろう経済学の本ではなく、洋書のコーナーだった筈。
彼はそう言ったきり、私とは目を合わせず前を歩く。
辿り着いた通路には予想通り、誰もいない。
「────……ッ」
息を呑む音も聞こえたんじゃないかと思う程、静まり返った空間で──空気が、揺れた。
「……ごめん」
彼の口から、切なく零れた言葉。
私の唇には、まだ感触が残っている。