恋の扉をこじあけろ


ゆかりの前に座っていた男性の声で皆で乾杯をし、すぐに各々おしゃべりを始めた。

美味しそうな料理が次々と運ばれてくる。

「琴乃、あのときは本当にごめん」


サラダに手を伸ばすわたしに、幸宏は頭を下げてきた。


「俺の謝罪を聞いてくれないか」


「謝罪?」


わたしは眉を顰めながら水を飲んだ。


「俺、琴乃のことはちゃんと好きだった。ほんとに好きだったんだよ」


じゃあ、どうして。

あのときわたしじゃなくて、あの子を選んだの?


「あのときはまだコドモで…。自分がかわいかったし、俺はモテるってうぬぼれてた。あの子に琴乃は遊びだって言った時点で…引き返せなくなったんだよ」


確かに、幸宏はプライドが高かった。


わたしにあれは嘘だと謝ることも、わたしに縋ることも、彼のプライドが許さなかったのかもしれない。


だけど、あの子に気持ちが揺らいでいたのも事実なはず。


じゃなきゃ、わたしを利用しているだけだなんてことは言わないだろうから。


< 229 / 278 >

この作品をシェア

pagetop