猫人・人猫
序章

人の日常

つまらない。
猛烈につまらない。
たまに、唐突にこういう感覚に襲われる。

思春期付近に良くある、一種の病気のようなものだろうか。
私は何でこんな平凡な生活を送っているのだろうとか、何で変身して仲間と世界を守ったりしないのだろうとか……そういうことを考えてしまう。

「……おたまはつまんなくない?」

私は横に寝転んでいるおたまに静かに話しかけ、耳の後ろを掻いてやる。
彼女はグーッと手足を伸ばし、薄目を開け、興味が無さそうに欠伸をした。

おたまは猫だ。
八年前の春、家にやって来た。
まだ小学生だった私は、彼女を飼って貰おうと家族を必死に説得したものだ。
籠城や兵糧攻め……様々な手段を使い、家族は漸く折れた。

それから、ずっと一緒。

避妊手術をしに動物病院へ行った際、先生に一歳くらいと言われたので、今は九歳くらいか。
人間の歳だと……面倒だから考えるのやめよう。

「私さ、これからどうなると思う?やっぱ、平凡に生きて行くのかな……まあ、それになりに何かあるだろうけど、流石にそんなファンタジーみたいなことはないと思うんだ」

おたまに何を話したところで、独り言と変わらない。
わかっているけれど、こんな話、人には出来ないし。
黙って聞いてくれるのは、おたまくらいだ。





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