瑠哀 ~フランスにて~
「あなたの息子の別荘を覚えているのでしょう?

フォンテーヌ家の別荘は、そのすぐ近くよ。

見逃しはしないわ。

ユージンに会いたいのなら、無実を証明するのね。

彼も、あなたを疑っているわよ」


 瑠哀はピエールと朔也を促して、振り返りもせずその場にマーグリスを置き去りにした。


「ルイ、あれはどういうことなんだ?

見たところ、彼はシロだろう?」

「そうね。私もそう思うわ」

「だったら、なぜ、あんなふうに脅すような真似をしたんだい?

ユージンは、このことを一切知らないし、彼らがフランスを去るとは……」

「唯一の孫が襲われて苦しい目に遭っているのに、

会いにも来ないで助けようともしない身内など、こっちから願い下げだわ。

ただ一人の息子を見捨て、くらだないものを守り続けた彼の周りに、

何が残っているの?

富と地位で、ユージンは買えないのよ。

彼が心を入れかえるとしたら、これが最後のチャンスよ」

「君は、彼を試しているの?」

「そうよ。ユージンはセシルといて幸せよ。

それを、価値のない欲の為に、その幸せを壊して良いはずがないわ。

誰にもそんな権利はないもの」

「君は、彼の所有するものが無価値だと、言いたいの?」

「なにが幸せかは、一人一人違うわ。お金もそうだし、地位もそう。

でも、ユージンの幸せは、母親と一緒に暮らすことでしょう?

だから、彼が心を入れ替えないのなら、縁を切るより他は方法がないわね。

彼ばかりも構っていられないもの。

私達には、他にも考えなければならないことがあるから」
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