瑠哀 ~フランスにて~
 朔也はその目をピエールに向ける。

 ピエールは返事をしなかったが、その顔が朔也に同意しているのは間違い無かった。


「一体、マーグリスに何を頼んだのか、それさえも判らない。

準備が整うまで話をすることはできない、と言われてしまった以上、口を割る気は全くないだろう。

必ず、瑠哀が口留めさせているはずだ。

マーグリスも、瑠哀には世話になっている。

いかな俺達と言えど、話をさせることはできない。

だから、今の状態では、お手上げ、と言うしか他はない」


 朔也は苛立たしげに溜め息をついた。


「今の所、僕達にできることは、ルイから目を離さないことだけだ。

これ以上、このルイの状態が続くなら、無理矢理でも眠らせて連れ帰るしかないだろう」


「判っている…………」


 朔也は微かに瞳を落とし、椅子の背に寄りかかった。


 瑠哀がほとんど眠らなくなって来ている。

 朔也がどんなに言っても、少しの間だけ目を閉じる真似をするが、気が付いたら瑠哀の目は開いていた。


 それを監視している朔也が眠らないので、瑠哀がそれを心配し、ピエールに朔也を眠らせるよう頼んだ。

 それで、今では、ピエールもほぼ瑠哀の部屋に入り浸りの状態になっている。


 朔也とピエールの二人が交代で眠る形を取っていて、必ず、どちらか一人が瑠哀を監視している。


 浮かない顔で床を見ていた朔也が、不意に、顔を上げた。

 眉を寄せ、しばらく耳を澄ますように顔を微かに傾けていたが、突然、バッと立ち上がった。


「ピエール、隣に誰かいる」
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