瑠哀 ~フランスにて~
「ルイっ」

「サクヤ、お願い。動かないで。お願い…」

「ルイ――」

「いつまで喋ってるんだ。動けっ」


 苛立ったようにリチャードが、ドン、とルイの背中を銃で突き飛ばした。


「きさまっ――」

「動くな!」

「サクヤ、ダメっ!」


 ガチ、と引き金を引いたリチャードがルイを狙い定めるのと、瑠哀が叫び返すのとが、ほぼ同時だった。


 今ここで動きたいのに、朔也は動くことができない。

 リチャードなど、拳銃など全く怖くない。

 ユージンをここで放り投げてもいい、とさえ思えてしまうのに。



 だが―――、動くことはできなかった。

 瑠哀が――誰よりも大切な少女の命が、今この場の一瞬に全て懸かっているのだ。

 リチャードが手を抜くような男には、決して見えない。

 それならば、絶対に、瑠哀も無事ではいられないだろう。

 瑠哀だけは、決して傷つけたくはないのだ。


 今は、決して、動けない。

「ルイ…」

「サクヤ、動かないで。お願い…。

お願い、サクヤ―――」

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