瑠哀 ~フランスにて~
 ユージンを抱き上げながら、朔也の拳が震えるほどに強く握り締められていた。

 何もできず、見ているだけで手をこまねいている朔也の前で、リチャードに連れられた瑠哀の後ろ姿が遠ざかって行く。


 この朔也の目の前で、最も大切な大切だと気が付いた少女、瑠哀が連れ去られていく。


 無理矢理、連れ去られていくその一瞬に投げた瑠哀の表情が、瞳が、朔也を心配していた。動かないで、と――――


 この自分の目の前で、無残にもあのリチャードに瑠哀を手渡してしまった。

 何もできずに手をこまねいて―――



「くそっ―――!」



 自分に対する激しいい憤りが抑えられない―――
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