瑠哀 ~フランスにて~
 確かに、今のこの状況では負け惜しみなのかもしれない。

 さっきまでは、ケインから絶対に目を離すことができなかった。

 だが、今は―――リチャードから目を離してはいけない。隙を見せてはいけない。


 ケインとは違った意味で、リチャードから逃れらないのだ。


 人を殺しても全く厭わないその鋭利な視線が、

瑠哀が抵抗するならば必ず撃ち殺す、と暗黙に語っている。



 逃げられない。



 逃げ切れない……。



『…サクヤ、ピエール……』


 もう、あの二人に、二度と会えことはできないのだろう。

 ユージンが無事で、良かった。二人が無事で、良かった。



 だが、瑠哀は、きっと、あの二人にもう一度会えることはないのだろう。

 もう二度と、会えることはないのだろう――――



『…サクヤ、ピエール、ごめんなさい……』



 きっと、心配している。


 もう、きっと二度と会うことはかなわない――――

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