瑠哀 ~フランスにて~
『さあ、着替えをして、ルイ。

俺は向こうを向いているから、着替えをして。

――さあ』



 しっかりと瑠哀を抱き寄せていたその腕を解き、朔也がそっと瑠哀を促して行く。



 仕方なく、瑠哀も立ちあがった。

 朔也が本当に向こうを向いてくれるので、椅子から着替えを取り上げ、

瑠哀はちょっとだけまた朔也を振り返っていた。




 それから、べちょべちょに濡れている自分のワンピースのチャックをゆっくりと外し出す。

 体にひっついた服をゆっくりと外すように下ろして行きながら、

パサッと、そのワンピースを脱ぎ捨てた。



 瑠哀がTシャツに腕を通している間、朔也はあらぬ方向を向いて、

その部屋にある丸い小さな窓越しに、ただ静かに外を眺めていた。

 窓の向こうには、段々と近づいてくる海岸沿いの家々が視界に入ってくる。



 ―――そして、それとは別に、ガラス越しに映る、白い影――――



『サクヤ。着替え終わったから、サクヤも着替えて』



 また向き直ると、着替えを終えた瑠哀が朔也に新しい着替えを手渡していた。

 ダボダボのTシャツを着て、借り物で男物のズボンは白い制服ではなく、

紺色のストレートのズボンだった。

 誰が判断して、あのズボンを瑠哀にと考えたのかは知らないが、

細い瑠哀には上下揃ってダボダボで、

丈以外はあまりに大きすぎる洋服をあつらえてもらったようだった。


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