瑠哀 ~フランスにて~
 ピエールは無表情にマーグリスを見下ろし、冷たい眼差しでその先を促す。

 それを承知済み、と言った感じのマーグリスはそれで怯むでもなく、

自分の持っている手紙を静かに差し出しながら、ゆっくりと話し出す。



「あなたに、お伝えすることがあります。そして、お渡しするものも」



 それを言うマーグリスの手から、ピエールは無言でその手紙を抜き取った。



「他に、何だ」



 冷たい、相手を気にかけさえもしない口調。


 背の低いマーグリスはピエールをかなり見上げる形になっていたが、

それでも静かにピエールを見上げて、



「まず、フォンテーヌ氏にも、私からお礼を言わせていただきます。

あなた方には、私も、そして、二人からも、本当に感謝しています」


「別に、僕がしたことじゃない。ルイがしてることだ」



 冷たく、明らかに、さっさと終わらせろ――と含んだ忌々しげな口調。


 それにもマーグリスは気にした様子はなく、またゆっくりと先を続けて行く。



「そして、マドモアゼル・ミサキには、感謝し切れないほど、

私達は、本当に心より感謝しています。

マドモアゼル・ミサキが私達にして下さったことは、私も決して忘れはしないでしょう。

本当に、感謝しています」



 態度を懐柔して、今ではその口調通り瑠哀に深謝しているマーグリスの態度を、

ピエールは何も言わず黙って見ている。

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