瑠哀 ~フランスにて~
 ピエールはハッと我に返り、瑠哀に歩み寄った。

 瑠哀の肩に手をかけ、頬にキスをする。



「そんなことはない。とても綺麗だよ。あまりに悩殺的で、眼が眩みそうだ」


 ピエールは眩しそうに眼を細め、瑠哀を眺めるようにした。



 目の覚めるような鮮紅色のドレスが体にピッタリとフィットして、瑠哀の女らしい体の線を露にしている。

 トップとサイドの髪を後ろで結わえ、その残りのウェーブのかかった髪が肩を流れていた。

 そのドレスと同じ色の口紅と大きな瞳が印象的に輝いている。



「変、とはどうして?」

「傷跡が少し目立って…。ちょっと、醜いかな――と思って」


 どれ、と言ってピエールは瑠哀の髪をつかんであげた。


「目立つほどじゃないよ。髪の毛で隠れているしね」

「良かった」

「パトロン、と聞いた時はそう確かじゃなかったが、これがその所以かな。

とても魅惑的だよ、ルイ」

「それは…ありがとう。ピエールも、とても素適よ」

「いい男に仕上がって、惚れ直した?」

「そうね」

「ルイ、とても綺麗だよ。

――そろそろ、行かなきゃ」


 朔也が瑠哀の後ろに来ていて、そっと声をかけた。


「今日は姫をエスコートさせていただき、光栄の至りです。

それでは、行きましょうか」



 ピエールが気取ったふうに腕を出す。

 朔也も腕を差し出し、瑠哀に向く。



 瑠哀はその両方の腕に手を置き、二人の顔を見渡した。


「行きましょう?」
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