森の人
そこへ、
「長がお呼びだ。来い」
森の番人が、五人を呼びに来た。
「行きましょう」
うつむいている澤山を尻目に、サヤカのその言葉で立ち上がる三人。
そして五人は、森の番人の長のテントまで連れて行かれた。
「決まったかの?」
五人の顔を見る森の番人の長。
「…」
澤山を見る四人。
「その様子では、決まったようじゃの」
「ならば、森に捧げる者の名を言いたまえ」
顔を見合わせ頷く四人。
固く目をつむり、覚悟を決める澤山。
そして、四人の唇が動く。

「澤山茂樹」

誰一人として他の名を言う者はなく、四人全員が口を揃え、ただ一人の名を言った。
「ではこれより、生け贄を捧げに参る」
その言葉と同時に、森の番人達に手をロープで縛られ、目隠しをされる澤山。
そこへ森の番人の長が近付いてきて、
「何か言いたい事はあるかの?」
と、澤山に聞いた。
「どうしてこんな事に」
哀しい声で言う澤山。
「人の心は醜くて脆い…。言ったはずじゃ」
「さぁ、行け」
その言葉に、澤山の手を縛ったロープを引っ張る森の番人。
目隠しで何も見えない暗闇を、森の番人に引っ張られ、おぼつかない足取りで歩く澤山。
背筋は曲がり、その表情からは生気は感じられなかった。

どれ程、暗闇の中を歩いただろう。
「この匂いは…」
微かに、あの、優しい甘い匂いを、澤山は感じた。
そして次第に、その匂いが澤山を包んでいった―
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