極上御曹司のイジワルな溺愛
そんな彼女が弱々しく笑って見せるなんて、それこそ彼女らしくない。きっと何かある。
すると私の足は「薫さんを呼びに行け」という脳からの命令を受け、裏の家へと走り出す。
「椛! どこに行く?」
「薫さんを探してきます。お二人はそこで少し待っててください!」
おせっかいなのは、百も承知。
一度こうだと思ったら、ジッとしていられないのが私の性分。
私の勝手な思いかもしれないけれど、里桜さんにはいつも明るく幸せに笑っていてもらいたい。
里桜さんのらしくない笑顔の原因が、もし薫さんだとしたら……。
彼が急に帰国した意味も、自ずとわかってくるというものだ。
そう思うと必然的に、走る足が速くなる。
「薫さん! いますか?」
玄関のドアを思いっきり開けると、薫さんを探し始める。
玄関ホールにある大きな古時計は、二十三時目前。深夜には違いないが、三十代の大人なら起きていても何の不思議もない時間だ。
風呂も済ませて、部屋にいる確率が高い──
一気に階段をかけ上げると、蒼甫先輩の隣の部屋の薫さんの部屋の前に立った。