極上御曹司のイジワルな溺愛
里桜さんを見れば、俯き少し体が震えているように見える。
「おい、兄貴! 何を言って……」
思いもしなかった薫さんの言動に、蒼甫先輩も声を荒げた。
そんな話をしたことはないが、蒼甫先輩も薫さんの気持ちに気づいているはず。
里桜さんがいるのに、どうして……。
困り果てて動けないでいると、里桜さんがポソッと呟く。
「今日は帰るわ」
里桜さんのその言葉と同時に、私の肩に回されていた薫さんの腕も下ろされる。
「椛ちゃん、ごめん。ちょっと用事を思い出したから、僕も帰るね」
こんな時間に用事なんて……。
あるはずがないとわかっていても引き止める事もできず、それぞれの方向に歩いていくふたりの背中を見送るしかすべがなかった。
取り残されてしまった私と蒼甫先輩は、お互い目を合わせるとなんとも言えない空気が流れる。