極上御曹司のイジワルな溺愛
「なんだよ。俺とふたりでは、食べに行けないとでも言うつもりか?」
戸惑っている私の顔を、蒼甫先輩が覗き込む。
か、顔が近い……。
至近距離に整った顔が近づき途端に鼓動が速くなれば、必然に顔も火照りだす。
「そ、そんなこと、一言も、言ってないじゃないですか」
きっと赤くなっているであろう顔を見られないようにそむけ、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
今日は溝口さんのことで頭を使って疲れてるというのに、こんな事になってしまうなんて。
ツイてない──
それなのに自然の摂理というものは時と場合を選ぶことなく、私のお腹はさっきからグウグウと鳴りっぱなしだ。
「面白くなさそうな顔をしてるが、まずは腹ごしらえって感じだな」
蒼甫先輩は小馬鹿にしたように笑ってみせると、私の手をグイッと引っ張り歩き出した。
「ちょ、ちょっと先輩。逃げも隠れもしませんから、手、離して……っ」
「うるさい。黙れ」
すぐ、これだ。
何かと言えば「うるさい」「黙れ」。
何を怒ってるのか知りませんが、ちょっと偉そうではありませんか?
なんて、面を向かって言えたらいいんだけれど……。
黙ったまま私の手を引っ張っていく蒼甫先輩の後ろ姿を見て、諦めの溜息を吐いた。