極上御曹司のイジワルな溺愛
溜息にも似た息を漏らし、私の手を引いて少し前を歩いている蒼甫先輩の背中を見つめた。
蒼甫先輩と付き合うことになるなんて、数時間前の私は想像すらしていなかった。嫌われてはいないだろうけど、まさか私のことをずっと好きだったなんて……。
嬉しすぎる──
少し前まで複雑な気持ちで涙を流していたというのに、じわりじわりと実感が湧き始め、嬉しさから顔がニヤけてしまう。
初恋でもなかろうに、何を舞い上がってるのよ! 少し落ち着いたらどう?
自分で自分に言い聞かせても、一度上がってしまった熱は下がることを知らない。
しかも蒼甫先輩が、耳元に顔を寄せてさらっと、
「さっさと帰るぞ。椛にもっと触れたい」
なんて言うから、鼓動の高まりはすぐにピークを迎えてしまう。
「な、な……」
なんて破廉恥なことを……と言いたいのに、甘い痺れが体中に走って、うまく口が回らない。
そんなストレートな言葉を蒼甫先輩が言うなんて……驚きだ。
この調子で行くと、家まではあと少し。
蒼甫先輩と、そうなりたいような、まだ早いような……。
初体験を目前にした乙女さながらに、不思議な気持ちに包まれながら、蒼甫先輩と歩調を合わせた。