極上御曹司のイジワルな溺愛
「いない、ですね」
「そうみたいだな」
矢嶌邸につくと玄関は施錠されたままで、どこを探しても中はもぬけの殻。用事があると薫さんは言っていたけれど、あれは本当だったのかなと首を傾げる。
「わたし、薫さんに悪いことしたのかもしれませんね」
薫さんと里桜さん。顔を合わせたときの反応を見れば、あのふたりの間に何かあったことは間違いない。
それなのに私ときたら、何も知らなかったこととはいえ余計なことをして……。
自己嫌悪に陥っていると、それに気づいた蒼甫先輩が私の肩をふわっと抱いた。
「そんなに気にするな。兄貴も子供じゃないんだし、思うことがあってひとりでいるんだろう。それに……」
「ん?」
変なところで蒼甫先輩が話を止めるから、何かと思って顔を上げる。と同時に先輩が顔を近づけ、耳元で囁いた。
「兄貴が居ないほうが、こっちは都合がいい」
蒼甫先輩の甘い口調に、その先の言葉が安易に想像できてしまう。
体中の血液が顔に集まってきたような錯覚に、熱くて仕方ない。