極上御曹司のイジワルな溺愛


「里中さん、こっちこっち」

里桜さんの声に顔を向けると、肩肘ついて色っぽい笑みで迎えてくれる。

「遅くなってすみませんでした」

小走りに近づき、里桜さんの隣に腰掛ける。

「渋いお店ですね」
「でしょ。前回日本に戻ったときに見つけたんだけど、十割蕎麦が美味しくて。それにね、日本酒の種類も豊富なのよ」

そういうことか。

お酒が大好きな里桜さんは、その中でも日本酒に目がない。蕎麦に日本酒なんて、通としか言いようがない。

里桜さんが選んだ淡麗辛口の日本酒で乾杯を交わし、その香りを楽しむ。

「美味しい……」

すでにカウンターに用意されていた蕎麦がきをつまみに日本酒を飲むと、それは蕎麦の甘味と旨味を引き立ててくれた。

「明日も仕事よね? 忙しいときに、ごめんなさい」

飲んでいたお猪口をコトリと置くと、里桜さんの表情が神妙な面持ちへと変わる。

「いえ、大丈夫ですよ。里桜さんのほうこそ、大丈夫ですか?」

私の言葉に里桜さんは苦笑すると、お手上げと言うように肩をすぼめた。

「あまり大丈夫じゃないかな。里中さんも気づいていると思うけれど、薫さんと少し揉めてね。彼の考えていることがわからなくなってしまって。こんな気持ちのままじゃデザインなんてできないし、話をしようと日本まで追いかけて来たのに今日も逃げられて……はぁ……」

大きな溜息をつき、手酌した日本酒をグビッと荒っぽく飲み干した。



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