極上御曹司のイジワルな溺愛

今晩は、まだ時間がある。急かすつもりはない。

蒼甫先輩には「麻奈美と約束があった」と嘘をついてしまった手前、後ろめたい気持ちもあるけれど。彼に早く会いたい気持ちと鑑みても、今の優先順位は里桜さんと薫さんのほうが上だ。

心を落ち着かせ、里桜さんが話してくれるのを待つ。

ちょびちょび飲んでいた一杯目の日本酒を飲み終えたと同時に、里桜さんが顔を上げた。

「里中さん、奈々のこと覚えてる?」
「もちろんですよ。最後に会ったのは二年前ですけど、忘れるはずないじゃないですか」

里桜さんが言った奈々とは、彼女の娘の名前。里桜さんに似て“綺麗”という言葉がピッタリな女の子で、スラッとした美人さんだ。

奈々ちゃんが二歳のとき離婚して、それから女手一つで育てている。

「アメリカに住んでいるせいか、まだ六歳になったばかりだと言うのにおマセな娘でね。最近、私や薫さんと衝突することが多くて」

「六歳で、ですか?」

私が六歳の頃なんて、遊ぶことしか考えてない、男の子にも負けない活発な女の子だったけれど。今どきの女の子は、日本でもマセテいると聞く。

オシャレにも敏感で、化粧する子もいるとか。

六歳なんて、まだ赤ちゃんに毛が生えたようなものだと思っていたけれど、親と衝突までするとは末恐ろしい。



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