極上御曹司のイジワルな溺愛
「一緒に暮らしてる」
私とは反対にサラッとそう言うと、蒼甫先輩は涼しげ顔で蕎麦をすすった。
間違いではないけれど、そんな誤解を招く言い方しなくても……。
「ちょっと諸事情がありまして、社長のお宅に居候させてもらってるんです。付き合い始めたのも昨日からで」
「え? そうだったの? 蒼甫くん、あなた……」
里桜さんはそこまで言うと口を噤み、困った人ねと言うように蒼甫先輩を見た。
「まあ、そういうことなんで。それ以上はいいっこなしでお願いします」
なに、そういうことって、どういうこと? ふたりは何か通じ合ってるみたいで、私だけ蚊帳の外ですか?
いい年をした大人なのに、まるで拗ねたことものように、わざとズズッと音を立てて蕎麦をすする。
「……ったく」
蒼甫先輩は呆れ顔で私を見て、でもすぐそれを柔らかい微笑みに変え頭をぽんと撫でた。
「で、どこまで話は進んだんだ?」
蕎麦屋に来たときチラッと合わさった目は、意地悪極まりないものだったのに。今は驚くほど柔らかい眼差しで、里桜さんの前だと言うのに胸が高鳴り顔が熱くなってしまう。
人は誰しも、美味しいものを食べると優しくなれるものなのね──
なんて自分の心を誤魔化すように蕎麦を食べ、コップの水を飲み干して体の火照りを冷やす。