極上御曹司のイジワルな溺愛
「椛ちゃん、おかえり~」
「え? えぇっ!?」
里桜さんと別れ矢嶌家へ戻ると、玄関で待ち構えていた薫さんに突然抱きしめられてしまう。
「兄貴、何度言えばわかるんだ!」
と蒼甫先輩は怒り心頭だが、薫さんは聞く耳を持たない。それどころか抱きしめる力を強めるから、体が悲鳴をあげた。
「か、かおるさん、体痛いし苦しい……」
「あぁ、ごめんごめん」
そう言って薫さんが腕の力を緩めると、隙きありと言わんばかりに蒼甫先輩が私を引き寄せた。
薫さん、もう怒ってないのかしら。朝は私の顔も見たくない感じで、ここを飛び出したっていうのに……。
私は、どんな顔をしたらいいの?
蒼甫先輩に助けを求めるように、顔を見上げた。けれど、蒼甫先輩も困ったように眉をひそめる。
「ふたりとも、どうしたの? そんな小難しい顔して」
私と蒼甫先輩とは明らかにテンションの違う薫さんに、戸惑うばかりだ。
「兄貴、お前なぁ。朝のこと忘れたのか?」
「うん? 朝? あぁそう言えば、椛ちゃん何か言ってたね。でも、もう忘れちゃった。そんなことより、ふたりでどこ行ってたの? 仲間はずれなんて意地悪だなぁ」
薫さんの態度、明らかにおかしい。
里桜さんのことを言わせないようにしているのか、普段より饒舌だ。