極上御曹司のイジワルな溺愛
その日の仕事は程々に切り上げ、帰る準備を整える。
「椛、夕飯どうする?」
「ごめん。まだ食欲ないし、お手伝いさんに挨拶もしておきたいから今日はやめとく」
麻奈美の誘いを断るのは忍びないが、ゆっくりしたいのも正直なところ。
「わかったよ。じゃあまた明後日。いつもの椛で出勤してよ」
「麻奈美、ありがとね。もう迷惑かけないように努力する」
「まあ、ほどほどにね」
従業員出入り口で手を振り別れると、私はそのまま雅苑の裏手へと回る。
雅苑のバンケットからも見える会長の豪邸は、何度も前を通ったことはあっても中に入るのは初めて。美術館のような佇まいに、ただただ瞬きを繰り返すばかり。
大きな門をくぐり、重厚な玄関の前に立つ。ゆっくり深呼吸すると扉に手を掛けて、その手を止めた。
「なんて言って入ればいいの?」
失礼します? お邪魔します? それとも、ただいま~と元気に挨拶して入ればいい?
なんだかどれもこれもしっくりしないとひとり悩んでいると、いきなり中から扉が開いて思わず「うおぉ!」と変な声を上げてしまった。