白銀の女神 紅の王(番外編)
こんな日常は決して当たり前ではないのだということを今回のことで自覚した今、傍にいることができるこの幸せを尚更大切にしたいと思う。
憂いを帯びた瞳でシルバを見上げていると、紅の瞳が細められ、シルバは無言で私の額に手を当てた。
大きく長い手は冷たく、とても気持ちいい。
額から離れた手は私の頬へと下げられ、手の甲で熱を下げるように繰り返しあてられる手が心地良くて無意識に目を閉じていた。
すると不思議なことに、今まで何事もなく起きていられたにもかかわらず、目を閉じるとぐるぐると視界が回るような目眩に襲われる。
「熱は下がっていないようだな」
「なんと!起きておったからもう下がったとばっかり思っておった。これほどに長引くとはウィルス性の強い風邪にかかったようじゃな。シルバ、うつされる前に部屋を移動した方が良いぞ」
シルバの声にゆっくりと目を開けると険しい紅の瞳と目が合う。
言われてみれば吐き出す息は熱を帯びているし、瞳はとろんとまどろむように視界がぼやけていた。
けれどここで熱があると断定されてしまうと、私はまた数日間ここで過ごさなければならない。
それはそれで当たり前のことなのだろうが、それより何より、またシルバと離ればなれになることの方が寂しかった。