FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
 シャルレとクレドが出会ったのは、今から3年前の冬。

 ある出来事で母国のアセーディア国にいられなくなったシャルレは、途方に暮れ彷徨い続けた結果、最終的に辿り着いたのがフォレストであった。



 右も左も何もわからない。
 “日常”では有り得ないことが普通に起こっているこの町に戸惑いを隠せなかった。

 ギラギラと目を血走らせ獲物を狙う輩、平気で行われる売春と犯罪、平和が抹消された町。



 何をどうすれば良いのか、誰を信じれば良いのかわからず、ただただ時間だけが過ぎていった。



 次第にシャルレは生きる気力すらなくし、飲まず食わずでただ道端に座り込んでいた。


 そこにやってきたのがクレドだった。
 彼は当たり前のように「食べれば」と言って、彼女にパンを与えた。

 クレドはシャルレをトーマの所まで連れて行き、面倒をみろと押し付けた。

 実に横暴だったが今ではそれがなければ、シャルレは此処にいなかったのだ。



 昔の自分と重なって見えてしまった彼女を、クレドは放っておくことができなかった。

 『誰よりも上に立った』彼だからこそ、シャルレに手を差し伸べることもできたのだろう。



 今思えば、シャルレはクレドに世話になりっぱなしだと思った。



 これは2年前の話。

 フォレストを牛耳ろうとしていたある山賊達がいた。
 フォレストの住人は元からの下衆が多いが、山賊達は周囲を凌駕する程の悪党であった。


 何人もの子どもや娼婦が殺され、出店が被害に遭った。
 過去最低ともいえる被害を被ったとも言えた程、彼等は暴れ回った。


 かく言うシャルレもその被害者の1人で、集団リンチに遭った。

 娼婦としての彼女は山賊の1人に買われ、いつものように仕事をこなした。
 けれどもホテルから出ようとした所を集団に囲まれ、乱暴を受けた。


 シャルレと特別仲の良かったクレドはそれを知り激怒し、その山賊を1人で壊滅するまでに復讐を遂行した。


 実にシンプルな話で、復讐心に駆られた彼は1人で山賊達のアジトに乗り込み、1人で数十人を殺し数十人に重傷を負わせた。



 フォレストの癌でしかなかった山賊達の壊滅に、住人達は酷く喜び、一躍クレドは有名になった。


 それからというものの、クレドは多くの賊から恐れられ、疎まられるようになったのだ。



 シャルレ本人としては喜ぶべきなのかわからない。
 復讐するまでに自分を大切に思ってくれていた証拠だが、自分の所為で彼の敵を増やしてしまったのだから。


 特に過激派のトルガー盗賊団は本気でクレドを潰す気でいるだろう。



 青髪の少年とやたらとデカい男の背中は既に消えていた。



 トーマの信条は「自分以外を敵と見なす」こと。
 それは彼女らも同じだった。

 しかしトーマほど冷たくはなり切れていない彼女らは、やはりお互いの仲間意識が強く自分よりも仲間の身を心配していた。



 きっとトーマは小馬鹿にしたように笑って、甘いね、なんて言うのだろう。
 そして彼女らよりも幾分も賢く簡単に綺麗にことを収拾するのだ。


 それを理解はしていても彼女らには数少ない仲間が大切だった。





 明くる日の朝は、あいにくと雨だった。

 少女はスピカで万屋に語学を習い、青年は相変わらず仕事に出ていた。
 褐色肌の娼婦もまた然り。



 そしてある青髪の少年はトルガー盗賊団のアジトに身を置いていた。

 フォレストD区の一角にある基地が彼ら盗賊の本拠地である。


 むさ苦しい男20人程がすむそこは、決して綺麗ではなくどちらかと言えば小汚い場所だ。


 いくつものランプに囲まれた空間には大きなテーブルと椅子、キッチン、冷蔵庫しかなく、なんとも殺風景だ。



「若、コイツ、どうします?」


 しかしその殺風景な中には痛々しく血に塗れた一人の女がぐったりと横たわっていた。


 息はあるものの意識はなく、まるで死人のようである。

 “若”と呼ばれた少年は、それを一瞥すると興味なさげにくわえられた煙草に火を点けた。



「情報収集はもう終わった。ヤろうが殺そうが好きにしろよ」


 その言葉を聞くなりニヤリと下品な笑みを浮かべたのは、一人二人ではない。

 ただ二人だけが興味なさそうにしていた。



「またかい若。情報収集は終わったんだ。解放してやれよ」


 その一人は鋼の肉体を持つ巨漢・ガラハドである。


「いいだろ別に。そもそもソイツは殺す予定の女だろーが。ヤられて終わるなら感謝して欲しいくらいだぜ」


「何でもかんでも壊すのは、若の悪い癖だな。用済みの人間は捨てちまえよ」


「うるせぇ。いんだよ、これはオレを欺いたバツだ」


 ギリッと奥歯を噛み締める彼も、またその一人だ。
 青い髪と鋭く釣り上がった瞳が刺々しさを顕しているが、その顔立ちはやはり何処か幼さを含んでいる。



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