FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
「……まさかソイツがスパイだったとはな」
少年は手にある煙草を押し付けてやろうかと考えたが、いちいち椅子から下りるのが面倒だから止めた。
横たわる女――彼女はトルガー盗賊団の一員で、“若”と呼ばれる少年の恋人だった。
半年程前に入団した彼女の素性は、トルガー盗賊団と敵対する盗賊団の一員だったのだ。
言うなればスパイで、トルガー盗賊団の情報収集のためにやってきて、少年と恋人関係にまでなった。
「チッ……うっぜぇなァ」
少年は心底不愉快そうに彼女に群がる男共から目を反らし、二階にある自室に行くため階段を上がっていった。
彼女を好きかと問われれば、好きだったのだろう。
けれども裏切られたと知れば、平気で制裁もできる程度の気持ちだったのだろう。
少年にとって彼女はその程度だった。
ガラハドはその日アジトには戻ってこなかった。
どうせ彼女を安全な場所に連れていったにちがいない。
そう思うと、少年は何故か無性にイライラしていた心が治まる気がしていた。
夜明け頃、雨音で目が覚めた少年はむくりとベッドから起き上がり、窓の外を見た。
工業が発達していない町だからか、空だけは綺麗なのだが、あいにくの雨でまるで鉛のようだ。
昨日から姿を消したガラハドと彼女のことを聞くなどしなくてもいいほど、アジトは現状を物語っていた。
一階の一部凹んだ壁に、青痣をつくった男共、消えた女。
確実にガラハドが彼女を逃がしたのだ。
「アイツも、余計なことばっかすんなァ……」
欠伸を噛み締めながらポツリと呟くと、ガタリと扉が開く音がした。
そこに目をやると血塗れになった服装のガラハドがいた。
「こうでもしないと、あの馬鹿共はヤっちまっただろうよ」
「だからアレで良かったんだよ。二度と刃向かわせないように、」
「わかってねーやなぁ全く。遅かれ早かれ傷付くのは、若だろう?」
「……何バカ言ってんだよ。なワケねーだろーが」
少年はふと考えてみた。
もしガラハドが助けなければ、彼女はどうなっていたか。
犯されただけで済んだかもしれないし、そのあと殺されたかもしれないし、誰かの奴隷にでもなったかもしれない。
別に平気だった。
しかしまた、気分の良いことでもなかった。
どれも不愉快には変わりない。
しかも犯されただけ、で気が治まっただろうか。
答えは否。
たとえ半年と言えど、少年は彼女を愛した。
彼女もまた少年を愛した。
わかりきっていたのに無意識に彼女を潰そうとしたのは、可愛さ余って憎さ100倍だったからである。
もう一度昨日の場面を思い出してみた。
ああ、とんでもなく、不愉快だ。
少年は彼女が何処に行ったのかも容体も聞かなかった。
半分はどうでも良くなり、半分はこれ以上賊に関わるべきではないと判断したからだ。
「若。これからどうするんだ。あの女の“記憶”、丸々全部抜いたらしいな」
「コレもバツだ。賊に関わってた記憶なんかいらねーだろ別に」
彼女の記憶を全て抜き去り、代わりに少年がその記憶を全て覗いた。
彼女が所属する盗賊団の企みも計画も全てわかった。
とりあえずは少年達の一派の壊滅が今回の計画らしく、最終的には少年を殺す流れであった。
昼前にやっと起きた連中は、青痣で痛々しい顔をしていた。
連中を集め事の流れを説明すると、少年は最後に言った。
「皆殺しだ。誰一人許すな」
少年はフォレストC区にある敵方の拠点への攻め方、誰が何処の配置か、もしこちらが劣勢になった時の対処、それらの全てを事細かに連中に説明した。
フォレスト生まれでフォレスト育ちの少年は学問などはからっきしだが、こういった戦略などには長けていた。
そしてその真夜中、少年達は見事に敵勢を制圧した。
命令通り敵方は全滅。
その場は血の海と化し、また団員達も血に染まった。
「はあ……はあ……」
「若、大丈夫かい、怪我はねぇか?」
肩で呼吸を繰り返す少年に、ガラハドが心配そうに声をかけた。
おびただしい程に血塗れの少年は、最早返り血なのか自身の血なのかすらわからない。
ガラハドが傍まで寄ると少年は、瞳孔を開いたまま床に倒れている男を睨み付けていた。
彼こそがトップの者だ。
左胸には少年のナイフが深々と突き刺さっている。
ガラハドは口にこそしないがわかっていた。
自らの手でボロボロにした彼女は、このトップの男に利用されていたことを。
それを彼女の“記憶”を介して知った少年の腸[ハラワタ]が煮え繰り返っていたことを。
「チッ。記憶盗るの忘れた……」
呼吸を徐々に落ち着かせてからの第一声はそれで、ガラハドは溜め息をつく。
「全く、ヒヤヒヤもんだぜ。若が突っ切っていくんだからよ」
「たりめーだ。オレの首を取ろうなんざ胸糞悪いんだよ」
少年は続けて「後10回殺してもタリねえ」と忌ま忌ましい表情で、死体を踏み付けた。
少年は手にある煙草を押し付けてやろうかと考えたが、いちいち椅子から下りるのが面倒だから止めた。
横たわる女――彼女はトルガー盗賊団の一員で、“若”と呼ばれる少年の恋人だった。
半年程前に入団した彼女の素性は、トルガー盗賊団と敵対する盗賊団の一員だったのだ。
言うなればスパイで、トルガー盗賊団の情報収集のためにやってきて、少年と恋人関係にまでなった。
「チッ……うっぜぇなァ」
少年は心底不愉快そうに彼女に群がる男共から目を反らし、二階にある自室に行くため階段を上がっていった。
彼女を好きかと問われれば、好きだったのだろう。
けれども裏切られたと知れば、平気で制裁もできる程度の気持ちだったのだろう。
少年にとって彼女はその程度だった。
ガラハドはその日アジトには戻ってこなかった。
どうせ彼女を安全な場所に連れていったにちがいない。
そう思うと、少年は何故か無性にイライラしていた心が治まる気がしていた。
夜明け頃、雨音で目が覚めた少年はむくりとベッドから起き上がり、窓の外を見た。
工業が発達していない町だからか、空だけは綺麗なのだが、あいにくの雨でまるで鉛のようだ。
昨日から姿を消したガラハドと彼女のことを聞くなどしなくてもいいほど、アジトは現状を物語っていた。
一階の一部凹んだ壁に、青痣をつくった男共、消えた女。
確実にガラハドが彼女を逃がしたのだ。
「アイツも、余計なことばっかすんなァ……」
欠伸を噛み締めながらポツリと呟くと、ガタリと扉が開く音がした。
そこに目をやると血塗れになった服装のガラハドがいた。
「こうでもしないと、あの馬鹿共はヤっちまっただろうよ」
「だからアレで良かったんだよ。二度と刃向かわせないように、」
「わかってねーやなぁ全く。遅かれ早かれ傷付くのは、若だろう?」
「……何バカ言ってんだよ。なワケねーだろーが」
少年はふと考えてみた。
もしガラハドが助けなければ、彼女はどうなっていたか。
犯されただけで済んだかもしれないし、そのあと殺されたかもしれないし、誰かの奴隷にでもなったかもしれない。
別に平気だった。
しかしまた、気分の良いことでもなかった。
どれも不愉快には変わりない。
しかも犯されただけ、で気が治まっただろうか。
答えは否。
たとえ半年と言えど、少年は彼女を愛した。
彼女もまた少年を愛した。
わかりきっていたのに無意識に彼女を潰そうとしたのは、可愛さ余って憎さ100倍だったからである。
もう一度昨日の場面を思い出してみた。
ああ、とんでもなく、不愉快だ。
少年は彼女が何処に行ったのかも容体も聞かなかった。
半分はどうでも良くなり、半分はこれ以上賊に関わるべきではないと判断したからだ。
「若。これからどうするんだ。あの女の“記憶”、丸々全部抜いたらしいな」
「コレもバツだ。賊に関わってた記憶なんかいらねーだろ別に」
彼女の記憶を全て抜き去り、代わりに少年がその記憶を全て覗いた。
彼女が所属する盗賊団の企みも計画も全てわかった。
とりあえずは少年達の一派の壊滅が今回の計画らしく、最終的には少年を殺す流れであった。
昼前にやっと起きた連中は、青痣で痛々しい顔をしていた。
連中を集め事の流れを説明すると、少年は最後に言った。
「皆殺しだ。誰一人許すな」
少年はフォレストC区にある敵方の拠点への攻め方、誰が何処の配置か、もしこちらが劣勢になった時の対処、それらの全てを事細かに連中に説明した。
フォレスト生まれでフォレスト育ちの少年は学問などはからっきしだが、こういった戦略などには長けていた。
そしてその真夜中、少年達は見事に敵勢を制圧した。
命令通り敵方は全滅。
その場は血の海と化し、また団員達も血に染まった。
「はあ……はあ……」
「若、大丈夫かい、怪我はねぇか?」
肩で呼吸を繰り返す少年に、ガラハドが心配そうに声をかけた。
おびただしい程に血塗れの少年は、最早返り血なのか自身の血なのかすらわからない。
ガラハドが傍まで寄ると少年は、瞳孔を開いたまま床に倒れている男を睨み付けていた。
彼こそがトップの者だ。
左胸には少年のナイフが深々と突き刺さっている。
ガラハドは口にこそしないがわかっていた。
自らの手でボロボロにした彼女は、このトップの男に利用されていたことを。
それを彼女の“記憶”を介して知った少年の腸[ハラワタ]が煮え繰り返っていたことを。
「チッ。記憶盗るの忘れた……」
呼吸を徐々に落ち着かせてからの第一声はそれで、ガラハドは溜め息をつく。
「全く、ヒヤヒヤもんだぜ。若が突っ切っていくんだからよ」
「たりめーだ。オレの首を取ろうなんざ胸糞悪いんだよ」
少年は続けて「後10回殺してもタリねえ」と忌ま忌ましい表情で、死体を踏み付けた。