FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
――その窓の外にいたのは、あの少年だった。
青い髪と鋭い瞳を持つ、トルガー盗賊団の“若”である。
予想通り返ってきた少女の声に、少年はニヤリと笑う。
少年の企みはこうであった。
最近クレドにできたらしい女に接触して、その女を介してクレドに関する記憶を知ること。
トーマ、シャルレ、ジュリナとクレドに近しい人物はそれなりに知っていたが、どれも近付くには無理があった。
特にトーマは少年に対してカナリの敵対心を持っていたから、それは無駄だとわかっていたのだ。
ならば最近出てきたばかりの、何も知らなそうな少女にすればいい。
「窓開けろよ」
ぶっきら棒に言うと、窓に張り付いた少女の影がオロオロと困ったように揺れた。
「開けちゃダメって言われてるから、ダメ」
返ってきた声は澄んでいて、明るさが滲み出ていた。
その瞬間に少年は、少女に対し嫌悪感を抱いた。
――ああ、嫌な分類である。
少年は自分と対極にある類は嫌いだった。
いかにも純粋そうで、無邪気な人間。
何故こんな人間がフォレストにいるのか奇妙だ。
そんな人間が大嫌いで仕方なかった。
今すぐ窓を叩き割って乗り込んで、少女をボロボロにしてやろうかと考えたが、そうすれば自分の計画がすべて狂う。
それにこんな馬鹿そうな少女ならば手玉に取るのも簡単だろうと、少年はほくそ笑む。
「……おい、名前、なんてゆーんだよ」
キリエはいいだろうかと数秒考えるも、新しい出会いに胸を踊らせていた。
少女の世界は狭く、護るためとは言え実質自由はほとんどないのだ。
「……キ、キリエ!」
思い切ったような声で返ってきて、少年は興味なさげに「ふーん」と漏らす。
「君は? おなまえ、なんていうの?」
今度は自分に問われ、少年もまた迷った。
この少女に本名を言っても良いのか。
わざわざ偽名を使うのも面倒だし、別に今まで偽名なんて使ったこともなかったのだ。
少年は軽い気持ちで、まあいいかと一息つく。
「ヨシュアだ」
「ヨシュア……? ヨシュアってよんでもいいの?」
「好きに呼べよ」
早いところこの少女と仲良くなり、クレドの情報を手に入れる。
それを成すためにヨシュアは、こんな面倒でしかないこともやる。
「窓、開けろ」
「ダメ、開けないよ」
相手の記憶を覗くためには、相手の体の一部に触れる必要がある。
ヨシュアは舌打ちして、頭をガシガシとかく。
「で、でもね。わたしと友達になってくれたら、開けてもいいよ」
「は?」
一瞬呆気にとられた。
まさかフォレストにこんな脳天気な少女がいるとは思わなかったからだ。
ヨシュアは予想もしていなかった言葉に戸惑う。
友達なんてものは昔からおらず、トルガー盗賊団の仲間としかつるんだことがない。
盗賊団のメンバーは友達というよりも仲間や身内という方が正しく、そんな甘い関係ではなかった。
ましてやこんな普通そうな、決してフォレストにはいない少女の知り合いなんていなかったのだ。
この少女と“友達”なった自分を想像してみると、大嫌いなはずの分類なのにさほど悪くはなかった。
「わかったわかった。じゃあなってやるから、開けろよ」
「あ、今日はダメ。クレドに友達つくっていいか聞いてからね」
この少女に自己決定能力はないのかと、ヨシュアは再度舌打ちする。
クレドクレドと繰り返す様はまるで刷り込みでもはたらいている雛鳥のようだ。
「待て。アイツには絶対にオレのことは言うな」
「え、どうして?」
「“友達”になりたいんだろ? “友達”とやらは秘密を持つらしいぜ」
「秘密……」
「“友達”になりたいなら、このことは絶対誰にも言うな。誰か一人にでも言ったら、お前とは“友達”にはならない」
まるで脅すようき言えば、キリエは慌てて「言わない!」と言った。
「ぜったい言わないよ! だから、また来てね」
案外ちょろいな、と内心思いつつもヨシュアは声だけ優しく「わかった」と言い、クレド宅に背を向けてそこから離れていった。
間に窓を挟んだままで相手の顔すらも見えなかったが、この新し出会いがキリエにとっては新鮮で心がドキドキしていた。
青い髪と鋭い瞳を持つ、トルガー盗賊団の“若”である。
予想通り返ってきた少女の声に、少年はニヤリと笑う。
少年の企みはこうであった。
最近クレドにできたらしい女に接触して、その女を介してクレドに関する記憶を知ること。
トーマ、シャルレ、ジュリナとクレドに近しい人物はそれなりに知っていたが、どれも近付くには無理があった。
特にトーマは少年に対してカナリの敵対心を持っていたから、それは無駄だとわかっていたのだ。
ならば最近出てきたばかりの、何も知らなそうな少女にすればいい。
「窓開けろよ」
ぶっきら棒に言うと、窓に張り付いた少女の影がオロオロと困ったように揺れた。
「開けちゃダメって言われてるから、ダメ」
返ってきた声は澄んでいて、明るさが滲み出ていた。
その瞬間に少年は、少女に対し嫌悪感を抱いた。
――ああ、嫌な分類である。
少年は自分と対極にある類は嫌いだった。
いかにも純粋そうで、無邪気な人間。
何故こんな人間がフォレストにいるのか奇妙だ。
そんな人間が大嫌いで仕方なかった。
今すぐ窓を叩き割って乗り込んで、少女をボロボロにしてやろうかと考えたが、そうすれば自分の計画がすべて狂う。
それにこんな馬鹿そうな少女ならば手玉に取るのも簡単だろうと、少年はほくそ笑む。
「……おい、名前、なんてゆーんだよ」
キリエはいいだろうかと数秒考えるも、新しい出会いに胸を踊らせていた。
少女の世界は狭く、護るためとは言え実質自由はほとんどないのだ。
「……キ、キリエ!」
思い切ったような声で返ってきて、少年は興味なさげに「ふーん」と漏らす。
「君は? おなまえ、なんていうの?」
今度は自分に問われ、少年もまた迷った。
この少女に本名を言っても良いのか。
わざわざ偽名を使うのも面倒だし、別に今まで偽名なんて使ったこともなかったのだ。
少年は軽い気持ちで、まあいいかと一息つく。
「ヨシュアだ」
「ヨシュア……? ヨシュアってよんでもいいの?」
「好きに呼べよ」
早いところこの少女と仲良くなり、クレドの情報を手に入れる。
それを成すためにヨシュアは、こんな面倒でしかないこともやる。
「窓、開けろ」
「ダメ、開けないよ」
相手の記憶を覗くためには、相手の体の一部に触れる必要がある。
ヨシュアは舌打ちして、頭をガシガシとかく。
「で、でもね。わたしと友達になってくれたら、開けてもいいよ」
「は?」
一瞬呆気にとられた。
まさかフォレストにこんな脳天気な少女がいるとは思わなかったからだ。
ヨシュアは予想もしていなかった言葉に戸惑う。
友達なんてものは昔からおらず、トルガー盗賊団の仲間としかつるんだことがない。
盗賊団のメンバーは友達というよりも仲間や身内という方が正しく、そんな甘い関係ではなかった。
ましてやこんな普通そうな、決してフォレストにはいない少女の知り合いなんていなかったのだ。
この少女と“友達”なった自分を想像してみると、大嫌いなはずの分類なのにさほど悪くはなかった。
「わかったわかった。じゃあなってやるから、開けろよ」
「あ、今日はダメ。クレドに友達つくっていいか聞いてからね」
この少女に自己決定能力はないのかと、ヨシュアは再度舌打ちする。
クレドクレドと繰り返す様はまるで刷り込みでもはたらいている雛鳥のようだ。
「待て。アイツには絶対にオレのことは言うな」
「え、どうして?」
「“友達”になりたいんだろ? “友達”とやらは秘密を持つらしいぜ」
「秘密……」
「“友達”になりたいなら、このことは絶対誰にも言うな。誰か一人にでも言ったら、お前とは“友達”にはならない」
まるで脅すようき言えば、キリエは慌てて「言わない!」と言った。
「ぜったい言わないよ! だから、また来てね」
案外ちょろいな、と内心思いつつもヨシュアは声だけ優しく「わかった」と言い、クレド宅に背を向けてそこから離れていった。
間に窓を挟んだままで相手の顔すらも見えなかったが、この新し出会いがキリエにとっては新鮮で心がドキドキしていた。