FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
 二人がアジトに戻った後、それはそれは大騒ぎだった。

 あのプライドの高いヨシュアがガラハドにおぶられて帰ってきたのだから。


 団員達は相手を殺す殺すと盛り上がり、こめかみに青筋を走らせていた。



 そんな彼等を窘めるのも嫌で、馬鹿騒ぎしている様を眺めるだけだ。



「おいお前等、若をやった相手には、若が直々に報復にいくさ。お前等が騒ぎ立てることじゃねえ」


 ヨシュアはわかっていたと言わんばかりの顔で、自分の代わりに場を納めるガラハドを見る。


 ガラハドは此処の団員には珍しいような人間だ。


 他の奴のように血気盛んに喧嘩っ早いところもないし、難癖つけて相手を脅すようなこともしない。



 だからといって、決して善人中の善人なわけでもない。


 作戦と決まれば人殺しだって実行してみせるし、盗みだってする。



 彼のそんなところを、ヨシュアとその父は気に入っていた。



「……もう寝る」



 ヨシュアは木製のテーブルに手をついて自身を支えながら立ち上がる。



「若! 大丈夫っスか。そのケガどうするんスか」


 比較的若い、差ほどヨシュアと歳の変わらない団員が心底心配そうな顔で言う。




「知るかよ……つーか、骨、イテェんだから、喋らすなボケ」


 息を吸うことすらままならないというのに、いちいち怪我の治療だの相手への報復だの、喋る気力はない。


 ヨシュアは小さく謝る団員を無視して、一人でふらふらと二階へと上がっていった。



 あんなに頼りなさそうな若頭の背を見るのは、初めての者が多かった。


 心配そうな団員達からわかるように、ヨシュアは皆から信頼されている。

 ヨシュアのたてた作戦では失敗はまずない。
 そしてヨシュアのいるところでは、常に死への恐怖が存在しない。


 彼が自分たち団員を護ってくれるという自信があるからだ。


 どんなに危険な目に遭っても彼といれば救ってくれる――。



 そんな絶対的な強さが、彼にはあった。



 故にヨシュアは、団員達から敬われ畏れられている。




 苦しそうに、今にも消えそうな呼吸を繰り返すヨシュアは、自室にいくとブーツも脱がずにベッドに上がる。


 寝転ぼうとするも、背中に走った激痛で、即座にやめた。



「チッ……クソが」


 このままじゃ数日間は眠ることもできない。

 多少の痛みになら耐性はあるが、流石に内側からの痛みには堪えがたい。



 とりあえずベッドの一番上まであがり、壁に背を預けた。



 今はこれが精々のリラックス方法らしい。



 ズクズクと疼く痛みに耐え、ヨシュアは無理矢理目を閉じた。



 今夜は到底眠れないだろうが、何もする気になれないから目だけ閉じる。
 運良く、痛みを忘れて図太く眠られたら幸いだ。



 分厚い窓ガラスの向こうから微かに聞こえてくる鈴虫の鳴き声に、いつもならば舌打ちのひとつもしたくなるが、何故か今夜はそれが気休めになった。



 
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