銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あたし!? あたしが『貴婦人』!?

 なんで!? どこをどう修正すればあたしが『貴婦人』!?

 しかも『お美しい』って、あんまりにもそれは、露骨にお世辞が見え透いて逆に白けるって!

「王様、ひょっとしていよいよ御身をお固めに?」

「おお、ついに王妃様を娶られるのですか!?」

「ヴァニス王様、おめでとうございます!」

 ちょ……ちょちょちょっと、待って!?

 なんか異様に状況がエスカレートしてない!?

 誰が貴婦人でどれが王妃だって!? え!?

 あたしは妖怪馬の細いろくろ首の陰に隠れながら、ひたすら混乱した。

「おぉ、恥らっておられるぞ!」

「なんとお可愛らしく、慎み深い!」

「素晴らしい貴婦人だわ!」

 ひえぇぇ~~!? 誰か何とかして! この勢いを!

 そ、そうか、考えてみればまだ独身の国王が、二人掛けの馬車に乗って、女性同伴でお出掛け。

 勘ぐられる要素が満載だわ。

 この典型的な日本人顔じゃ、ヴァニスの親戚だとは誰も思わないだろうし。

 あたし、花嫁候補だってカン違いされちゃってるんだ!

 なるほどそれなら、『お美しい貴婦人』ってセリフも頷ける。

 仮にも王の花嫁候補を、『凹凸の少ない女性』とは形容できないだろうし。

 うわぁ~、目立ちたくなかったのに完璧に悪目立ちしてる!

 ヴァ、ヴァニス! ちょっとヴァニスってば! 早いとこ、この誤解を解いてちょうだい!
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