銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 必死に横目で訴えていると、ヴァニスが人々に説明してくれた。

「この者は、雫という。余の大切な客人である」

 あたしは、ろくろ首の陰でウンウン頷いた。

 そ、そうなの。皆さん聞きましたか? 客なの。あたしはただの客にすぎないの。

 だから皆さんの誤解なんですよ~~。

「皆、聞いたか!? 今はっきり『自分の大切なお方』と仰られたぞ!」

「やはりそうなのですね!? ヴァニス王様!」

「これはおめでたい!!」

「おめでとうございます! ヴァニス王様、雫様!」

 ぎょええっ!?

 みんな、話聞いてるようで全然聞いて無いんですけど!?

 都合のいい言葉だけがチョイスされて、しかもいい具合に脳内変換されてる!

 事実な部分は綺麗サッパリ全部無視されてる~!

 なのにヴァニスは気にした様子も無く、あたしに向かって手招きしている。

 たぶん若い独身の国王なんて、こんな誤解は日常茶飯事で慣れっこなんだろう。

 でもあたしは困るの! はっきり迷惑なの!

 こんな状況で、あんたの隣に並ぶ勇気もツラの皮の厚さも、持ち合わせてないのよ~!

 ろくろ首をギュッと握り締めながら、あたしはヴァニスに向かってフルフルと顔を横に振った。

 お願い、あたしの事は忘れてください。ここでおとなしく影を薄くしていたいんですぅ。

 でも皆、そんなあたしの様子を見てニコやかに笑っている。

「慎ましやかで上品な貴婦人だなぁ」

「いかにも、王妃様の座に相応しい」

「雫様、どうぞ我々にお姿をお見せ下さいまし」

「さぁ雫様!」

「雫様! 雫様!」

 雫様コールが湧きあがる……。

 最っ悪……。

 これで無視したら、あたしってただの礼儀知らずの無礼者じゃないの。
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