銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 ほんのわずかに見えていた、希望の光が遠ざかる。

 するりと指の先から逃げて、今は跡形も無い。

 なぜ? なぜこんなに?
 なぜこんなにまでも、救いようが無い?

 絶望によって異世界に飛ばされ、失意の底に落ちたあたしが出会った人達は、全員が揃って善人だった。

 水の精霊も、モネグロスも、ジンも。

 イフリートも、ノームも。

 ヴァニスも、マティルダちゃんも、国民の皆も。

 みんなみんな、あたしに本当に優しく親切にしてくれた。

 誰一人として悪人なんていない。それは間違いの無い事実だ。

 なのに、どうしてこんな事になってしまう?

 皆が善人なら、皆が等しいなら、皆が等しく救われてもいいはずなのに。

 どうしてこんなにまでも、どうしようもない事情が世界にまかり通るんだろう。

 世界って、生きるって、なに?

 あたしは、信じていたのに。

 真実とか、正義とかって存在を信じていたのに。

 ……信じる?

 あたしは、ふと思った。

 モネグロス。砂漠の、神。

 ……そう、神。

 まさか、モネグロスも?

 モネグロスも神として人身御供を受け取り、命を奪い続けていた?

 そして、そんな事をしながら、人間のあたしにあんなに優しい笑顔を向けていた……?

 そう考えて、あたしはゾッとした。

 そして痛烈に受け止める。信じること、そして……

『無知である』という事を。


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