銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
崩壊の兆し
「雫、どうした? 顔色が悪いぞ? 大丈夫か?」

 ヴァニスが立ち上がり、心配そうにあたしの顔色を覗き込む。

 あたしは口元に手を当てて頷いたけど、本当は具合が悪い。なんだか吐きそうだ。

 人身御供の件について、きっとモネグロスには……神側には神側の言い分があるのだろう。

 あちらの世界でも、昔は人身御供が実際に行われていたし。

 人身御供に捧げられる事を、名誉とする地域すら実在した。

 それは決して一方的ではなく、神と人の双方で成り立つ儀式だった。

 でも、あたしの心は拒否反応を起こしてしまう。

 理屈で理解しても感情が納得できない。どうしても、どうしても考えてしまう。

『これは神による残虐行為だ』って。

 非力な人間は、可哀想な被害者なんだって思ってしまうのよ。

「病み上がりなのだから、無理をするな。もう横になれ」

 ヴァニスに肩を抱かれるように支えられ、あたしはベッドに運ばれる。

 そして体を横にしながら、重々しい溜め息をついた。

 ……叩きのめされた感じだわ。

『みんな、仲良くしましょうよ。きっと出来るわよ。さぁ手を取り合って!』

 そんなお気楽なあたしの発想を、誰かに鼻で笑われているような気がする。世の中はそんな単純じゃないんだって。

 たしかに、道はどこかにあるのかもしれない。

 でも、あるからといって見つかるとは限らない。

 何もしないで諦めるのが嫌だから、一歩前へ進んでみたけれど、進んだ先は道じゃなくて、崖っぷちだったような気がする。
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