銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 片っ端から目くらめっぽう突進して、勢い余って崖から落下してたら世話無いわ。

 そんな時間も無い。

 そうよ、いくら衝撃が大きかったからって、勝手に絶望してなんていられない。

 どっちが悪いとか、こっちが被害者とか、また堂々巡りしてる暇も無い。

 もう迷ったりしないわ。そのせいで大事なことを見失えない。

 モネグロスやジン達に、会わなきゃならない。

 今聞いた話をみんなに伝えるんだ。

 あたしひとりが……いえ、人間側だけが抱え込んで、悶々悩む問題じゃないんだもの。

 それぞれの種族が自己完結してないで、もっとオープンな姿勢を見せ合うべきよ。

 そうすれば妥協案が見つかるかもしれない。

 基本的に今まで、『みんなで何とかしよう』って提案が、一度も出されて無いのが問題なんだわ。

 意見と利益のゴリ押し風潮から、ちょっとだけ目を逸らして、それぞれが譲歩できる点を提示すれば、なんとかなるんじゃない?

 ……そうよ! 大岡越前『三方一両損』よ!

 この方針でいけばいいんじゃないかしら!?

 いや、さすがは日本の誇る名奉行だわ!

 死後250年以上も経ってから、異世界の難題を解決する糸口になるなんて!

 よし! あっぱれ忠相(ただすけ)!!

「雫、どうした? また急に顔色が良くなったようだが?」

「ええ! あの、ちょっと聞いて欲しい事があるの!」

 あたしはベッドに仰向けになったまま、興奮して話し出した。

 ヴァニスは上から覗き込むようにしてあたしの顔を見ている。
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