銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「あたしが愛しているのはジンなのよ!」

「グアアアア――ッ!!」

 あたしの懸命の説得に、獣のような叫びが返ってきた。

 ねぇ、聞いてるの!? ちゃんと聞こえてる!? 大事な話なんだから聞いて!

「あたしはジンが好きなのよ!」

「ギャアアア――ッ!!」

 ああもう、何を言っても『ガアア』しか返ってこないし!

 猛獣相手に話し合いしてる気になってきた!

 だから! あたしが愛しているのはモネグロスじゃなくてジン……

 あぁそうか! ジンって言われても、アグアさんには何の事だか分かんないんだわ!

 でも説明しても、そもそも通じるの!? これ!

 あたしは死に物狂いで応戦し、ひたすら叫び続けた。

「アグアさん! モネグロスはあなたを愛……!」

―― ズボオッ!

「ぐううぅ!?」

 大きく開いたあたしの口の中に、いきなりアグアさんの手が突っ込まれた。

 ノドが焼けるような感覚が肺に伝わり、それが全身に瞬く間に広がる。

 侵入した穢れが体内を冒している!

 あたしは白目を剥いて、必死に口から手を引き抜こうとしたけれど、また全身から力が抜けていく。

 恐ろしい怪力に太刀打ちできない。さらに喉深く入り込んでくる手と、穢れ。

 体中を駆け巡る悪寒。悪意。悪しきもの。

 あたしは、汚染、される。

 穢れて、捕り込まれて……死ぬ。

 死ぬ。死ぬ。……死……。
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