銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「ちょ……ロッテンマイヤーさん!?」

 あたしは慌てて彼女に目配せした。

 それはちょっと、あまりに辛辣な言葉じゃない!? 弱っている人間に対して鞭打つような真似を……!

 でも彼女はあたしの狼狽など意にも介さず、スッと立ち上がってヴァニスを見据えた。

「愚痴も、弱音も、後悔も、この騒動が収まった折に存分にお聞き致します。退位なさるならば、ご随意に。ただしそれは騒動を収めた後にお願い致します」

 すうっっと伸びた、一本筋の通った背中。

 正々堂々とした眼差し。信念に満ちた声。

「わたくしが御幼少よりお育て申し上げたヴァニス様。やるべき事をおやりなさい。この期に及んで投げ出す事は、決して許しません」

 キツイ言葉と厳しい口調には、妥協も甘えも一切許さぬ姿勢と決意が込められている。

 でもその凛々とした声色に明らかに含まれるのは、強い愛情。

 信念を持って支え続けた、王家への固い忠誠。

 心血注いで育てた、ヴァニスへの深い信頼。

 決して揺らぐ事の無い、己自身の品格。

 汚れたドレス、ほつれた白髪の老婦人は、まさに誇り高き人間の姿そのものだった。

 その立派な姿を、食い入るようにヴァニスは見ている。

 あたしはそんな彼に向かって、静かに語りかけた。

「ねぇ、ヴァニス。今の状況はあなたにとって、すごく辛いわよね。そんな時にこんな事、酷だと思う」

 休む暇無く立ち上がれ、と言うことは。
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