銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「でもね、資格が無いとか有るとか以前に、あなたは今、国王陛下じゃない?」

「……」

「どんなに辛くとも苦しくとも、今、あなたは国王。その厳然たる事実から逃げられる?」

 あたしの言葉に、イフリートが何度も頷いて同意する。

「王よ、自分自身からは決して逃げられぬ」

 ジンが床に腰を下ろし、膝に頬杖ついて語りかける。

「逃げたい気持ちは分かるが、無理なんだよ。本当に大切なものからは、絶対に離れられないからな」

 ノームが懸命に訴える。

「ヴァニス王、どうか、どうか負けないでください!」

 そう。負けちゃだめよ。

 逃げちゃだめなのよ。

 だって自分自身に言い訳は通用しないから。

 あなたはそれを充分に知ってるはずよ、ヴァニス。

「ヴァニス王」

 ロッテンマイヤーさんが、あたし達の言葉を繋いだ。

「ここまで言われてまだ分からぬようでしたら、ご幼少の頃のようにわたくしが、お尻をぶって差し上げましょうか?」

 ヴァニスは無言だった。

 無言で、あたし達全員の顔を順番に見回した。

 その表情に少しずつ力が戻ってくる。目に光が宿ってくる。

 真っ直ぐな黒い瞳は、最後にロッテンマイヤーさんを見上げて……

「さすがにこの歳になって、尻をぶたれるわけにもいくまい」

 そう言って、笑った。

 ロッテンマイヤーさんも、僅かに唇を緩ませる。

 初めて見る彼女の笑顔は、意外なほどに可愛らしく見えた。
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