銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「違う! こんなのは違う!」

 あたしは激しく頭を左右に振った。

 乱れた髪の毛先が頬に突き刺さるように当たる。

 こんな理由で全てが失われた。皆が、かけがえのない大切な物を奪われてしまった。

 これでいいはずがない!

 せめてモネグロスの想いは、アグアさんに伝わらなければならない!

 それによってアグアさんが真実を知る事になっても!

 それで絶望の底に落ちる事になったとしても!

「モネグロスの愛は、アグアさんにだけは伝わらなければならない!」

 体が燃えるように熱い。込み上がる強い感情が鼓動を速める。

 全身の細胞が目覚めるように、水が共鳴していく。

―― ポウ……。

 アグアさんの足元の地面が、突然淡い光を放ち始めた。

 無数の小さな丸い光が浮かび上がって、まるでアグアさんを囲むようにして光っている。

 あれは……モネグロスの涙だわ!

 モネグロスが最期に流した幾粒もの涙の雫が、光を帯びて浮き上がっている!

『アグア。愛しの君よ』

 聞き慣れた声が鳴り響いて、驚いたアグアさんが周囲を見回す。

 ひとつの涙の雫が大きく輝き、その光の中にモネグロスの幻影が浮かび上がった。

 あの姿は、初めて会った時のモネグロスだわ。

 砂漠の神殿で衰弱し、アグアさんに会える日を切望していたモネグロス。

『アグアに会いたい……』

 思いのこもった言葉を残し、ひとつの光が消えた。
< 528 / 618 >

この作品をシェア

pagetop