銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 前を見たままのノームの目から、透明な涙が流れ落ちる。

「ずっと一緒にいるために……あなたは、生きてください……」

 ぽろり。ぽろり。

 次々と流れる涙。

 もはや光を失い、黒ずみかけた両目から零れた涙が、ノームの頬を幾筋も伝って落ちる。

 ふわりと、風が下から舞い上がり、あたしの体を揺らした。

「しずくさん……あのね、ずっと言いたかった……」

 体が持ち上げられる感覚。

 スルリと木の根が解けていく。

 あたしは、必死の思いで木の根を放すまいと握り締めた。

「名前……ありがとうって……」

 体が、浮き上がる。

 木の根が、指の間からスルスルと抜け落ちていく。

「とても、わたし、とてもとても、嬉……」

―― スウゥゥ……

 あたしの体は浮上してしまった。

 だから、ノームの言葉の最後は……


 聞き取れなかった。


 見る間にノームが小さくなっていく。

 どんどん、どんどん。

 むせび泣くあたしが、どんなに懸命に手を伸ばしても、ノームにはもう届かない。

 あたしの手も、この声も。

 届くのは、ただ……

 ただ、奈落に吸い込まれるように次々と落ちる、あたしの涙の雫だけ……。


 風の噴水のような勢いに飲まれ、あたしの体は飛び上がった。

 そしてバランスを崩しながら、ドサリと地面に落下する。

 あぁ……穴から、出た。

 そう感じた瞬間、大きな地響きを地面の下から感じた。

 振り向かなくとも、あたしには分かった。


 ノームを飲み込んだまま、穴が閉じられてしまったのだと……。

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