銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
生贄
　あたしは両腕で自分の体を抱きかかえ、顔をクシャクシャにして泣いた。

　そうでもしないと悲しみのあまり、体が破裂してしまいそうだった。

　ノームが、逝った。逝ってしまった。

　あたしを守ってくれたノーム。兄弟や仲間を心から大切にしたノーム。イフリートに幼い恋をしたノーム。

　ずっと一緒だと約束した、可愛い可愛いノーム。

　彼女は自分の幸せな未来全てと引き換えに、あたし達の命を守って逝ってしまった。

　モネグロス、イフリート、ノーム。そしてマティルダちゃんも。

　こんな事があって良い訳がない。絶対にないんだ。

　なのに、無情なほど現実は、世界の破滅を拒絶するための犠牲として皆の命を根こそぎ奪い去っていく。

　代償は、どうしても払わなければならない。払わなければ得られるものは何もない。

　分かっていても……これはあまりにも……。

――　ズザザザ！

　何かを引きずる様な音が聞こえて、あたしは涙でグシャ濡れの顔を上げた。

　アグアさんの体がまるで目に見えない糸に絡め取られたように、地面を擦って移動していく。

　その先には…………石柱の真ん中に立つ番人が！

　あたしは飛び上がるように体を起こし、引きずられるアグアさんを追って懸命に走り出した。

「アグアさん―――！」
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