銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 アグアさんは両手の爪を地面に立て、必死に引きずられまいとしている。

 なんとかアグアさんに追いついて手首を掴んで引っ張ったけれど、簡単に振り切られてしまった。

 あたしはアグアさんの体の上に飛び掛るようにして覆い被さる。

 どう!? あたしとふたり分の体重よ! 簡単には引きずれないでしょう!?

―― ズ……ザアァァ……。

 あたしが乗った分スピードは遅くなったけれど、動きは止まらなかった。

 ゆっくりと、確実に、あたし達の体は石柱に向かって進み続けている。

 両手両足を地面に擦り付けるようにして抵抗しながら、あたしは焦った。

 どうしよう! このままだとすぐにあの化け物の所に到着する!

 そしたら間違いなく殺されるわ! あたしに力はもう残っていないし、攻撃はもちろん守る事もできない!

 手足が地面に擦れ、皮膚が傷付き出血する。

 どんどん近づいてくる番人の姿に、あたしの心臓が激しく鳴り出した。

―― ドクン! ドクン!

 化け物に対する恐怖心。死ぬ事への恐れと焦り。番人への許せない怒りの感情。

 色んなものが一気にごちゃ混ぜになり、全身から汗が噴き出す。

―― ドクン! ドクン! ドクン!


 近づく。あぁ、近づいていく。

 番人の表情が確認できるほどの距離に近づいて、あたしの体中の皮膚が汗で湿り、心臓は早鐘を打つ。

 そしてあたしの目と、番人の目が合った。

 何ひとつ揺らぐ事の無い番人の……いや、化け物の白い目の色があたしを捕らえる。

 ザザッと音を立てて、ついにあたし達の体は止まった。

―― ドックン!!
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