銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
絶望と希望

 あたしが元の世界へ戻り、もうすぐ一年が過ぎようとしていた。

 会社の屋上にペタリと座り込んで、お昼時間の許す限り空をボーッと見上げるのが、ここ一年のあたしの過ごし方だ。

 あぁ、今日は天気がいいなぁ。風も気持ちいい。

 うぅーんと思いきり背伸びをしながら見上げる空は、どこまでも高く澄んで、青々と晴れ渡っている。


 あの後、意識を取り戻したあたしは、会社の制服のまま会社の屋上に倒れていた。

 そしてこちらの世界では、トリップしてから5分か10分程度しか時間が経っていない事を知った。

 どんな作用が働いたのかは分からないけれど、お陰で何の騒ぎもなく、あたしはすんなり日常に戻れた。

 ……あくまで表面上は、だけれど。

 しばらくの間は、自分の中での折り合いをつけるので精一杯だった。

 あちらの世界での体験の凄まじさは言語を絶するものだったから、こっちの平穏な日常とのギャップに心が追いつかなくて。

 結局また会社を休んで寝込むハメになったけれど、いつまでもそうしてもいられない。

 あたしは会社に出勤して、日常生活を過ごし始めた。

 それでも最初のうちはやっぱり情緒不安定で、いきなり泣き出しちゃったりなんてのはしょっちゅうで。

 矢も楯も堪らず会社の屋上に駆け上り、フェンスにヤモリみたいにしがみ付いたりもした。

 ひょっとしたら、またトリップできるんじゃないかと期待したんだ。

 こっちの世界で生きるべきだと決意したけど、あたしの決意なんて、まーそんなもんよ。

 すぐにヘナヘナと紙切れみたいに腰砕けになってしまう。

 でも結局、トリップはできなかった。

 きっともう二度と、あの世界には戻れないんだろう。

 フェンスにしがみ付いたヤモリ体勢のままで、あたしは、ずいぶんと泣いた。
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