銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 今こうして会社の屋上で風に吹かれ、思うはやはりあの世界の事。

 あれからどうなったんだろう。みんな無事に復活できたんだろうか。あたしの事は記憶に残っているのかしら。

 どんな生活を送っているんだろう。神と精霊と人間の関係はどうなっているだろう。

 思いは尽きない。気掛かりはとめどない。

 どんなに考えても答えは分からないんだから、気にかけるだけ無駄なんだろうけど、でも世の中、無駄とか無意味とかそんな物差しだけでは価値は計れない。

 だからあたしは、これからもずっと想うのだろう。

 毎日の日常を精一杯過ごしながら、折にふれて思い出を彷徨うのだろう。

 あの時間は、あたしの中の大切な一部分なのだから。


 あぁ、風が気持ちいい。

 前髪を揺らし、耳をくすぐる風の流れる音が、心地良いささやき声のようだ。

 まるで誰かに呼ばれているみたい。


 雫と、あたしの名を。


『……ずく……』

 そう。そんな風に。

『……ずく。しずく。雫』

 ええ、こんなにハッキリと聞こえる気がするわ。

『雫! おい雫って!』

 あぁ、まるで本当に彼が呼んでいるような……。

『おい! 聞こえてんなら返事ぐらいしろよお前は!』

 ……。

 ……はあああ―――!?
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