銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 ちょうどあたしを中心にした半径一メートルぐらいの、局地的なこの部分にだけ雨が降っている。
 他には全然まったく、一滴も降っていない。

 こんな自然現象ってあるの? 初めて見たわ。

 きっと、天文学的な確率でしか遭遇できない自然現象なのね。

 半ば感動しながら空を見上げつつ、あたしはフェンスからそっと指を放した。

 ちょっと離れた場所から眺めてみよう。
 これが人生の最後と決意したちょうどその時に、こんな珍しい現象が見られるなんて、神様って本当にいるのかもしれない。

 フェンスから離れてゆっくり歩きながら、あたしは神様に感謝した。

 せっかく神様のプレゼントなんだから、良く見なきゃ勿体な……。

 あ……
 あれ??

 あたしは一瞬立ち止まって小首を傾げ、それから足早に移動した。

 ……あれ? なんでかしら、変ね?

 慌ててもう少し移動する。

 ……あれ?

 小走りに、フェンスからだいぶ離れた場所に移動した。

 ……あれ!?


 あたしは空を見上げ、呆然とする。だって、雨が……。

 雨が、あたしを追いかけて来る!?

 まるで役者を追いかけるスポットライトのように、あたしが移動した場所に的確に雨が降り注ぐ。

 どんなにチョロチョロ動き回っても、雨の方も負けていない。
 ピッタリと確実にマークしてくる。まるで腕の良い舞台照明さんみたいだ。

 ど、どうなってるのこれ??

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