俺様ホストに愛されて
やって来たのはさっきまで座っていたボックス席。
そこにいた3人は目を大きく見開きながら、あたしの隣に立つリュウを見つめている。
「ア、アキラ君、ビールこぼれてる!」
「え、うわっ。すみませんっ」
市井さんがハンカチを差し出すと、アキラ君は申し訳なさそうにズボンにこぼれたビールを拭った。
「お前、なにやってんだよ……ドジだな」
クールに笑ったリュウの顔は、ホスト辰巳の顔だった。
「す、すみません。びっくりして」
アキラ君、完全に萎縮しちゃってる。
表情がぎこちなく強張ってるし、明らかにさっきまでとは様子が違う。
「噂の辰巳君がどうしてここに?」
市井さんは酔っているのかテンションが高い。
ナツヤ君に至っては、固まったまま動かないし。
「今日はご来店下さって本当にありがとうございます。少しの間ご一緒させてくださいね」
聞いたこともないようなよそ行きの声で、市井さんに挨拶をするリュウ。
猫被ってるよ、この人。
作った笑顔だってあたしはすぐに見抜けたけど、市井さんは嬉しそうにきゃあきゃあ言ってる。
「悪いけど、そっち座ってくれるか?」
「は、はいっ」
そう言ってナツヤ君は席を移動した。
女2人にホスト3人って……。
多すぎじゃないの?
よくわからないけど、なにも言われないなら良しとするか。