世界を濡らす、やまない雨



有里がフロア内に足を踏み入れた瞬間、ざわついていた社内が急に静まり返る。

デスクに向かって歩いてくる有里に向けられる、無遠慮な視線。

軽蔑するような眼差し。

その中を有里は真っ直ぐに背筋を立てて歩いていた。


自分のデスクに座った有里は、辺りを見回すようにすっと首を動かす。

そうすると、彼女に無遠慮な視線を向けていた同僚達は一斉に視線を反らした。


有里の周りにだけ異質な空気を残して、社内は通常業務に向けて動き始める。


有里も自分のノートパソコンの電源を入れると、仕事を始めた。


有里が戻ってきた十分後、簡単な朝礼があり、そこで「課長が異動になった」というその事実だけを部長から告げられた。


平静を装って平常業務を行いながらも、社内はどこか浮き足立っており落ち着かなかった。

その落ち着かない空気の中で、有里だけは凛と背を伸ばして自分の仕事に取り組んでいた。


有里は昼休み以外はずっと自分のデスクに座っていて、一言も言葉を発さなかったし誰かの方に視線を向けることもしなかった。


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