世界を濡らす、やまない雨
「あぁ、すいません」
苦笑いする彼を見てほとんど反射的に謝る。
すると彼は、今度は困ったように眉尻をさげた。
「あの…道木さん、だよね?」
彼は困ったような表情を浮かべながら、少し自信なさ気に私を見つめた。
「道木、ですけど……私、あなたが言うように飲み会の予定はないですし…人違いかと」
彼に困ったように見つめられて、私も困って眉尻を下げた。
同じように眉尻を下げた私を見た彼は、首の辺りを人差し指で撫でるように掻く。
「俺のこと、覚えてない?」
彼は首の辺りに人差し指をあてたまま、私の反応を窺うようにこちらを見てきた。
知り合い、なのだろうか……
私は目の前に立つ彼の顔をじっと見つめた。
穴が開くほど彼の顔を見つめたけれど、やはりどこにも彼の記憶はない。