世界を濡らす、やまない雨
振り返ると、自転車に乗っていた男子生徒が私の方を見て微笑んでいた。
「あ、えと」
どうしていいかわからずに言葉を詰まらせている間に、自転車に乗った彼は私の横をそのまま通り過ぎていく。
「あの、バ、バイバイ!」
彼が自転車で五メートルほど前へ進んだとき、ようやく声が出た。
大きな声で叫んだつもりだったけれど、その声はこもっていてちっとも前へ通らない。
けれど、私の声を聞いた彼は振り返って軽く手を振ってくれた。
そのまま一度も止まることなく自転車で坂を下る彼の背中は、吹き抜けていく風のように爽やかだった。