世界を濡らす、やまない雨
私に声を掛けて走り去っていった彼は、クラスメイトの男子だった。
きりっとした真っ直ぐな目と爽やかな印象。
バスケットボール部のキャプテンも務めているという彼は、クラスメイトの間でも比較的好感度が高かった。
すごく女子にもてるというわけではないけれど、彼を好きだという女の子の噂をひとつかふたつ聞いたことがある。
そんな彼が、クラスでもあまり目立たない私の名前を覚えていたことが意外だった。
それに、男子とほとんど話したことがない私は彼に一言声を掛けてもらえて嬉しかった。
角谷 永智。
爽やかに過ぎ去っていった彼は、一瞬だけれど私の心から憂鬱を取り去ってくれた一陣の風だった。
そしてそれは、
記憶の中に残る、数少ない優しい思い出でもある。